公開日:
このページでは、今後も深刻化していくと考えられている介護士の人材不足と、2035年に訪れるとされる介護業界の破綻危機について解説しています。介護士の人材不足を乗り越えるために、10年先を見すえた対策を今から始めておきましょう。
介護士の人材不足は、そもそも社会の超少子高齢化によって介護が必要な高齢者が増えているとともに、介護業界を支える現役世代が減少しているという、二重の理由が原因です。そのため、日本社会の少子高齢化が改善しない限り、介護業界の人材不足が解消することもありません。
また、現在は2025年に要介護者や社会保障費に関する問題が深刻化する2025年問題が懸念されていますが、本当に事業者として介護業界での安定を考えていくためには、5年後、10年後、15年後を見すえた対策を今から講じていくことが必要です。
2025年問題とは、第二次世界大戦の後の第一次ベビーブームで生まれた団塊の世代(1947~1949年生まれ)が全て75歳の後期高齢者に達して、介護を必要とする人や健康問題を抱える人が急増すると考えられているものです。
そのため、まずは直近の課題として、2025年問題をどう乗り切るかということが介護業界では重視されており、必要な介護士の確保や介護施設の拡充といった対策が進められています。
2025年問題に備えて、介護士の募集を進めたり、海外から日本で介護士として働ける人材を集めたりしている人は少なくありません。しかし、信頼できる介護士は一朝一夕に増えるものでなく、また外国人介護士の多くには日本で介護職員として働き続けられる期間に制限があります。
つまり、現在の介護士不足や2025年問題を一時的に解決できたとしても、根本的な対策を講じておかなければ、さらに5年後、10年後には再び破綻危機を迎えてしまうことが明らかです。また、その頃にはさらに高齢者が現在よりも増加しており、要介護者の数に見合った介護士の数をそろえることが困難になると考えられるでしょう。
内閣府が発表した「令和元年高齢社会白書」によれば、2018年時点で日本の総人口の28.1%だった高齢化率(65歳以上の人の割合)は、2035年の時点で32.8%となり、およそ国内の3人に1人が65歳以上の高齢者になると想定されています。
一方、65歳以上の高齢者を、15~64歳の人々で支える割合は、2035年で1.7とされ、つまり高齢者1人を1.7人の現役世代で支えるという計算になります。
※参考サイト:内閣府「第1章 高齢化の現状と将来像」(https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2019/html/zenbun/s1_1_1.html)
団塊の世代が75歳以上に達する2025年問題から、さらに10年が経って2035年になれば、必然的に団塊の世代の年齢も85歳以上に達し、より深刻な要介護者の増加と介護士の人材不足が進行するでしょう。
現代は医療が発達しており、60代はもちろん、70代でも健康的に生活している人は少なくありません。しかし、現実的に80代となれば運動機能や認知機能が低下して、要介護認定を受ける人も増加します。
当然ながら、元気な高齢者を世話するだけであれば新人の介護士でカバーできることが多かったとしても、介護の難易度が難しい相手になればなるほど、介護士のスキルが重要になり、介護士にかかる負担も大きくなります。そのため、十分に信頼のおける介護士を適切に確保できている環境でなければ、後期高齢者が介護保険を利用して訪問介護などの介護サービスを利用しようとしても、業者から断られてしまうケースが日常茶飯事になってしまうかも知れません。
経済産業省の経済産業政策局産業構造課が2018年4月に公開した報告書「将来の介護需給に対する高齢者ケアシステムに関する研究会」によれば、2025年で介護士の人材需要は247万人に達する一方、実際の人材供給は215万人にとどまり、その時点で32万人の介護士不足が懸念されています。
また、それが2035年になれば、人材需要307万人に対して、人材供給は228万人となり、その人材ギャップは79万人と、2025年よりもさらに倍増していくと見込まれています。
つまり、単純計算で2025年問題よりも深刻さは2倍以上になると考えられ、早急な対策を現代から進めていかなければならないことは明白です。
※参考サイト:経済産業省経済産業政策局産業構造課(2018年4月9日)「将来の介護需給に対する高齢者ケアシステムに関する研究会」(https://www.meti.go.jp/press/2018/04/20180409004/20180409004-2.pdf)
平成12年度に要介護(要支援)の認定制度がスタートしましたが、毎年の要介護者・要支援者は増加を続けており、日本全体で見れば2035年頃までそのまま増加し続けることが見込まれています。
また、要介護・要支援の認定者数は、日本国内の特定地域に限定して増加するのでなく、日本全国で等しく増加していくと考えられており、どの地域であっても問題を無視することはできません。
経済産業省では、2035年に不足する人材需要ギャップを克服するために、いくつかの対策案を検討しています。しかし、それだけで現実的に人材不足は解消されるのでしょうか。
経済産業省の経済産業政策局産業構造課は、2035年の人材不足の対策として、環境改善による業務の効率化や働き方の改善、人材リソースの活躍を提言しています。これにより、人材需要に対して297万人までギャップを軽減できるとしていますが、それでもまた人材不足を完全に解消することはできません。
必要な業務機器やIT環境を導入・整備することで、介護士の労働時間や労働負担を軽減して、51万人分に相当する人材需要のマイナスギャップへ対処すると検討しています。
効率的な働き方を進めて、それぞれの介護士がケアできる要介護者・要支援者の範囲を拡大するだけでなく、そもそも介護士の離職率を低下させることで、+8万人分の人材供給をカバーできると考えています。
すでにリタイアした元介護士の高齢者や、介護業界を去った労働者を積極的に再活用して、9万人分の人材不足を解消するという提言も重要です。
政府が考える介護士の人材不足に対するプランは、決して間違いではないでしょう。しかし、現実的に介護現場の労働環境を改善し、新しい人材を募集するために介護施設が求人を出していても、なかなか就職を希望してくれる日本人介護士が少ないという現実を無視することはできません。
事実、積極的に介護士の採用活動を行っている事業所であっても、人材不足が簡単に解決されるということもなく、公益財団法人介護労働安定センターによる調査では、令和元年度で全国のおよそ65.3%の介護サービス事業者が「人材不足」を感じていると回答しています。
また、人材不足がどうして解決しないかという質問に対しては、90%の事業者が「採用が困難である」と回答しており、事業者の求人努力や採用活動に介護士の人材供給が間に合っていないことが現実です。
介護サービス事業者が考える人材不足の原因のうち、57.9%で最大のものが「同業他社との人材獲得競争の厳しさ」という内容でした。
日本全国で介護士の人材不足が叫ばれる中、有能な介護士や意欲的な介護士は多くの介護サービス事業者にとって魅力的です。そのため、それぞれの事業者が可能な限り職場環境や労働待遇を改善していたとしても、根本的に求人数に介護士の数が見合っていない以上、人材獲得競争が激化して人材不足が解消されることもありません。
また、政府は根本的な人材確保力の強化対策として、高齢者や女性の活用の他、専門人材でないボランティアや若者など「介護サポーター」の活用を目指していますが、そもそも少子化による労働力不足が解消していない現状ではそれにも限界があります。
だとすれば、介護士の人材として考えられる対象を日本国内だけでなく国外(外国人)にも拡大していくことは、リスク管理として現実的なアイデアの1つといえるでしょう。
※参考サイト:公益財団法人介護労働安定センター「令和元年度介護労働実態調査結果について」(http://www.kaigo-center.or.jp/report/pdf/2020r02_chousa_kekka_0818.pdf)
※参考サイト:経済産業省経済産業政策局産業構造課(2018年4月9日)「将来の介護需給に対する高齢者ケアシステムに関する研究会」(https://www.meti.go.jp/press/2018/04/20180409004/20180409004-2.pdf)
日本国内の労働人口が減少の一途を辿り、高齢者人口が増加していく以上、国内だけに注目した雇用対策では同業他社との人材獲得競争を解消することができません。そのため、民間の介護サービス事業者にとっては能動的な人材獲得活動として、あらゆる可能性を考えたプランを検討して、実施していくことが重要です。
政府は、介護士としての資格を持った専門的人材だけでなく、資格を持たないボランティアや高齢者などを「介護サポーター」や「認知症サポーター」として活用し、介護現場の業務負担を軽減することを想定しています。
これは合理的に見える反面、日常的なケアが難しい重度の要介護者に対しては事故リスクを考えねばならず、介護士の人材不足をそのまま介護サポーターで完全にまかなうことは非現実的です。
特に、介護の難しさや失敗は介護士の離職率を高める原因の1つとなっており、介護士の人材不足解消には意欲的で専門的なスキルを備えた介護士の育成や確保が求められます。
介護サポーターや認知症サポーター、介護支援サポーターなど、全国の自治体で介護業界のサポーター制度が検討されており、その中には65歳以上で要介護・要支援認定を受けていない高齢者をサポーターとして積極採用していることもあります。
しかし、それは「現時点で元気な高齢者」による老老介護の拡大であり、本質的な問題解決にはなっていません。
そのため、現実的には高齢者サポーターが要介護者になった場合も想定しておくことが不可欠です。
※参考サイト:吹田市「介護支援サポーター」(https://www.city.suita.osaka.jp/home/soshiki/div-fukushi/koreifukushi/koureishien/_72834.html)
※参考サイト:厚生労働省「認知症サポーター」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000089508.html)
日本政府は諸外国との連携によって、介護分野の専門スキルを有する外国人を育成・活用しようと、日本の介護業界で働ける外国人の枠を拡大しました。例えば、2019年4月1日に施行された在留資格「特定技能(特定技能ビザ)」はその一貫です。
特定技能ビザは、生産性向上や国内の人材確保に対する取り組みを行ってもまだ、人手不足を解消できない産業分野において実施されており、介護分野に特定技能ビザが入ったということは、ある意味において日本政府が国内企業の自助努力だけでは問題解決が難しいと認めた証拠ともいえます。
※参考サイト:厚生労働省「介護分野における特定技能外国人の受入れについて」(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_000117702.html)
介護分野の労働力として外国人を受け入れられるようになったとしても、実際に有能な外国人を雇用して、介護人材として活用できるとは限りません。むしろ、外国人を活用するためには適切な人材を見極めるだけでなく、そもそも施設や事業者こそが外国人採用に向けた理解を深めておくことが重要です。
異国で暮らしてきた外国人を、日本の介護業界で雇用しようと思えば、何よりもまず事業者や施設職員が外国人を雇用するメリットやデメリットを理解しておくことが欠かせません。
異文化への理解や偏見の解消、ライフスタイルの違いに対する備えなど、準備しておくべきことは数多くあります。
そもそも母国を離れて日本の介護業界で働こうとする外国人の多くは、スキルアップへの意識が高く、労働意欲も高くなっています。しかし、それに見合った環境や待遇を用意できなければせっかくの人材を活かすことはできません。
様々な分野でグローバル化が叫ばれていますが、実際に異文化との相互理解を深めて多様な人々と協和していくには、多くの準備や長い期間が必要です。
そのため、将来的にほぼ確実な問題の悪化が想定されている以上、今すぐにでも準備や雇用対策を始めることが大切です。
自分たちだけで外国人を雇用できる環境を完璧に整え、介護現場で健全に働いてもらえれば理想的ですが、現時点ですでに介護士の人手不足や業務負担が深刻化している状態では、なかなか新しい可能性を広げていくことも難しくなります。
そこで、外国人の見極めや異文化理解の支援、働く外国人や日本人職員のサポートなど、あらゆる面で協力してくれる専門家やプロを利用することもリスク管理の方法です。
必要な対策を多角的に考えながら、速やかな準備をスタートしていきましょう。