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介護従事者として外国人を雇用するための制度のひとつとして「EPA(経済連携協定)」が用意されています。この記事では、EPAに基づく介護福祉士候補者の受け入れに関し、制度の概要や目的、受け入れまでの流れ、他の制度との違いなどを解説します。
EPA(経済連携協定)とは、日本と相手の国の経済活動における連携強化を図るための制度です。限定された国・地域の中で貿易障壁を撤廃することにより。モノやヒト、カネ・サービスの移動を行うことにより、経済関係の強化を行うことが目的とされています。
介護事業においては、インドネシア・フィリピン・ベトナムの3つの国から人材の受け入れを行っています。介護福祉士候補者として入国した人は、日本の介護事業所で就労・研修を行いながら、国家資格である介護福祉士資格の取得を目指します。在留期間は4年間と定められており、家族の帯同は認められていません。
EPAの場合、母国における看護経験など、一定の経験や知識のある人材の受け入れを行うことになっているため、能力は比較的高いといえます。ただし日本と相手国との経済上の連携強化を目指した制度であることから、人材不足への対策として候補者を受け入れるものではありません。
人材不足への対策を目的として外国人介護士を受け入れる制度は他にあります。詳しく知りたい方は、以下からご確認ください。
EPAに基づき介護福祉士の候補者として入国するには、一定の要件が定められています。
EPAに基づく介護福祉士候補者として受け入れられるためには、まず自国で定められている候補者条件をクリアする必要があります。この条件は国によって異なります。
日本語能力に関しても求められる要件が定められているため、まずは現地の日本語研修機関による研修を受ける必要があります。この要件も国によって異なります。
以上のように日本語能力が求められることになりますが、入国後にも研修機関における研修(2.5〜6ヶ月)を受ける必要があります。
EPAに基づき介護福祉候補者として入国した後は、まず日本語研修機関などで研修が行われます。インドネシアとフィリピンから来た人においては6ヶ月の研修、ベトナムから来た人の場合は2.5ヶ月の日本語研修が必要です。
この日本語研修を行っている前後で、「JICWELS(国際厚生事業団)」によって外国人応募者と介護事業所のマッチングが行われます。このマッチングは、JICWELSが唯一の受け入れ調整期間となっており、双方の意思を尊重した採用が行われています。
日本語研修とマッチングが終了すると、介護事業所により雇用されて研修が開始され、働き始めることになります。そして入国から4年目に国家試験を受験し、介護福祉士の資格取得を目指します。ここで合格すると在留期間を更新することによって永続的に日本で働くことが可能ですが、万が一不合格となってしまった場合には帰国する必要があります。
外国人介護従事者を雇用するためには、この記事で紹介している「EPAによる介護福祉士候補者の受け入れ」のほか、「介護ビザ」「技能実習生制度」「特定技能ビザ」の4種類が用意されています。ここでは、EPAと他の3つの資格や制度についてどのような違いがあるのかをご説明します。
EPAに基づいて介護福祉士候補者を受け入れる際、対象となる国はインドネシア・フィリピン・ベトナムの3カ国のみと定められています。介護業界においては、以上の3カ国以外からは、EPAに基づいた人材の受け入れはできません。
他の3つの制度や資格と異なる点として、一定の看護経験を持っていたり、介護士として認定を受けている人など、もともとある一定の知識や技術を持っている人材が対象となる、という点が挙げられます。このような条件を満たす人が、母国・日本での日本語研修を受け、介護事業所で研修・就業を行うことになります。
EPAに基づく介護福祉士候補者は、介護事業所で研修・就労を行う中で介護福祉士試験の受験が必須とされています。在留期間は4年間と定められているものの、介護福祉士資格を取得した場合は在留期間を更新しながら永続的に日本で働くことが可能です(不合格の場合は帰国する必要があります)。
EPAによって介護福祉士候補者として日本で仕事を行う際には、介護等の経験や日本語能力など、ある一定のレベルが求められますが、インドネシア・フィリピン・ベトナムれぞれの国で要件や研修期間が異なる点に注意が必要です。
EPAの目的は、介護福祉士の資格取得を行い、国際連携の強化を行うという点にあります。そのため、日本国内における介護業界の人材不足解消を目的とした制度ではありません。そのため、人材不足を目的とした就労制度を利用したい、と考える場合の選択肢は「特定技能ビザ」となります。
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EPA | EPA(経済連携協定)に基づく外国人介護福祉士候補者の雇用 | 資格なし ただし、資格取得を目的としている |
資格取得後は永続的な就労可能 一定の期間中に資格取得できない場合は帰国 |
看護系学校の卒業生 or 母国政府より介護士に認定 | N3程度※ 入国時の要件は尼・比:N5程度、越:N3 |
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介護 | 日本の介護福祉士養成校を卒業した 在留資格「介護」をもつ外国人の雇用 | 介護福祉士 | 永続的な就労可能 | 個人による | N2程度※ |
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技能実習 | 技能実習制度を活用した外国人(技能実習生)の雇用 | 資格なし ただし、実務要件等を満たせば、受験することは可能 |
最長5年 介護福祉士を取得すれば在留資格「介護」を選択でき、永続的な就労が可能 |
監理団体の選考基準による | N4程度※ |
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特定技能 | 在留資格「特定技能1号」をもつ外国人の雇用 | 資格なし ただし、実務要件等を満たせば、受験することは可能 |
最長5年 介護福祉士を取得すれば在留資格「介護」を選択でき、永続的な就労が可能 |
個人による | 入国時の要件は ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の能力/介護の現場で働く上で必要な日本語能力。現地で試験を受け、合格することで日本での就労が可能。 |
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深刻な人手不足を背景に、日本に入国する外国人を介護福祉士の候補者として雇う協定が結ばれました。協定先の国は主にフィリピンやインドネシア、ベトナム。EPAでは特定技能や介護福祉士に移行することも可能です。以下ではEPAの外国人を雇用するメリットやデメリットについて解説します。
雇用対象を日本人に限定すると、若くて良い人材を発掘するのが困難です。日本は少子高齢化社会なので若い人材を確保することが職種を問わず難しく、伸びしろの点でも外国人を雇った方が魅力的な点が多くあります。対象の幅が広がれば、それだけ人材を確保しやすくなり、現場を活気づけることも可能です。慢性的な人手不足が続くと現場の負担が大きくなり、一人一人の介護士における重圧が高まってしまいます。その点、アジアの発展途上国である外国からやってきた外国人労働者にとって、日本の介護現場は比較的恵まれて映ります。多くの外国人介護士がやってくるのはそのためであり、労働人口が増加することは現場の負担を軽減するのに繋げられるでしょう。
外国人労働者は介護職としての適性がある人材が揃っている可能性が高いのもメリット。受け入れ先である東南アジア諸国の国民性は、他人への気遣いができ、明るくて優しいのが特徴だとされています。介護職はコミュニケーションを密に取ることが求められる職業であり、真摯に向き合うことが欠かせません。その点を鑑みると、東南アジア諸国の外国人は介護の仕事に向いている人材であるといえるでしょう。
外国人を雇うには、生活面をサポートすることが欠かせません。例えば住居から職場までの交通面は管理職者がサポートをするのが一般的とされています。そのため、EPAの外国人を雇用すると管理職者の業務負担が重くなってしまうリスクも。また、日本人スタッフと円満にコミュニケーションを取れるように、マニュアルの準備を整える必要もあります。雇用する側として外国人を受け入れるには準備が不可欠であり、それなりに手間がかかるのがデメリットです。
外国人労働者というだけで「安い賃金で雇うことが可能」と思われがちですが、そんなことはありません。雇うには日本人と同様の水準で給与を支払う必要があります。加えて、生活面のサポートに費用がかかるので、短いスパンでみると外国人労働者の方が高コストになる場合もあるのです。
外国人を介護人材として雇用することは、そもそも外国人が日本の介護業界での就労経験や学習・研修を経て、介護福祉士として資格を取得し、適切なスキルを備えた介護のプロとして活躍することが期待されています。そのため、外国人を雇用する介護サービス事業者にも、外国人の勉強を十分にサポートできるよう適切な研修体制を整えることが求められており、外国人を単なる労働力として活用するのでなく、あくまでも介護福祉士候補者として扱うことが必要です。
しかし、実際には介護の現場で人手不足が深刻化しており、その解消として外国人を雇用する事業者にとって、せっかく雇用した外国人を現場で活用できないことはデメリットの1つといえるでしょう。
JICWELSでは、日本の事業者が外国人の介護福祉士候補者を受け入れる上で、外国人が国家試験合格に必要な日本語能力や介護専門スキル、十分な知識を修得できるよう、受け入れ施設が整えておくべき「標準的な学習プログラム」を提唱しています。
標準的な学習プログラムは、訪日前・訪日後の日本語研修を終了した外国人介護福祉士候補者を対象として、外国人の就労開始から3年間で国家試験に合格できるよう学習目標や内容などを示しています。
3年間の標準学習プログラムは、1年目~3年目までそれぞれ以下のような内容となっており、受け入れ施設側はそれぞれの学習段階や勤務年数に応じた学習支援を実施することが必要です。
※参考サイト:公益社団法人国際厚生事業団JICWELS「2021年度版 EPAに基づく介護福祉士候補者受入れの手引き」(https://jicwels.or.jp/files/EPA_2021_C.pdf)
外国人を介護福祉士候補者が適切に勉強し、資格試験の合格を目指すために、管理職者だけでなく受け入れ施設で働く同僚や介護士が十分なサポートをしなければなりません。つまり、適切な研修体制や学習環境を用意するだけでなく、外国人の勉強時間を確保するために、他の人間が彼らの仕事を負担しなければならないということです。
そもそも労働力の不足を解消したくて外国人を雇用したにもかかわらず、理想通りに外国人を活用できないばかりか、彼らの学習支援を実施するための業務まで増えるとすれば、結果的に管理職者や同僚の業務負担が増えるということになります。
EPAを雇用するには学習支援がセットであり、そのために受け入れ施設の規模や職員数などにも基準が設けられています。しかし、基準ぎりぎりで受け入れては勉強時間を提供するための負担が大きくなり、結果的に職員のストレスを増加させてモチベーションを低下させてしまうというデメリットが生じるケースも少なくありません。
EPA介護福祉士候補者として入国した後、4年間就労・研修をした者は、日本語能力や介護に必要とされる一定の水準を満たしているとみなされます。そのため、「特定技能1号」へ移行する際に技能試験や日本語試験等は免除。なお、より具体的に試験を免除される条件を明記すると、「直近の介護福祉国家試験の結果通知が合格基準点の5割以上であること」と、「全ての試験科目において得点していること」です。
「特的技能1号」に無事移行できると、在留期間の更新回数の制限がなくなるので、介護施設等で就労することが可能。そのため、さらに最長で5年間、続けて介護施設などで働けます。また、この5年間で介護福祉国家試験に合格すると、在留資格「介護」に移行することも可能です。
在留資格「特定技能1号」への移行に必要な書類は以下の通りです。
なお、写真については無背景で鮮明かつ申請前3か月以内に正面から撮影された無帽のものが求められます。貼り付ける際は写真の裏面に申請する人物の氏名記載してください。
また、 申請人のパスポート及び在留カードは申請人本人以外の方が申請を提出する場合にのみ必要であり、「その他必要な特定技能外国人の在留諸申請に係る提出書類」は法務省のホームページにて確認できます。しっかり目を通しておきましょう。
特定技能への移行を申請する書類は、住居地を管轄する地方出入国在留管理官署へ提出して下さい。あるいは外国人在留インフォメーションセンターに問い合わせてもかまいません。地方出入国在留管理官署の公式ホームページがあるので、行き方が分らない場合は調べておくことをおすすめします。なお、受付時間は平日午前9時~12時、13時~16時です。手続きや曜日によって時間設定が異なる場合があるので、事前に確認しておきましょう。また相談窓口も地方出入国在留管理官署と外国人在留インフォメーションセンターであり、標準処理期間は2週間~1ヶ月許可される場合の手数料は4,000円です。
ここではEPAから介護福祉士に移行して日本で働き続けるために必要な資格や申請書などについて解説しています。
介護福祉士を受験するには、養成施設ルート・実務経験ルート・EPAルートの3つの方法あります。さらに、その中の一つであるEPAから介護福祉士になるルートには、「大学などで介護について学びつつ介護福祉士を目指す就学コース」と、「介護施設などで研修を受けて介護福祉士を目指す就労コース」の2つがあります。就学コースを選択する場合は、2年以上大学や専門の学校で勉強する必要があり、卒業した後介護福祉士の試験を受験して、合格すると介護福祉士として勤務が可能です。就労コースは入国後3年以上介護施設等で勤労・研修を受ける必要があります。
EPAから介護福祉士への移行に必要な書類は以下の通りです。
なお、「介護福祉士国家試験の受験票の写し」については、介護福祉士国家試験の合格通知書の写しを、審査結果を受理するまでに進呈してください。申請書類の提出先は地方出入国在留管理官署です。
EPAから介護福祉士へ移行することにはさまざまなメリットがあります。例えば、政府からのバックアップを得られたり、補助金を受け取ったりすることが可能です。介護福祉士として日本で働くことは、在留資格「介護」と同等の扱いなので、永続的に日本で暮らすことが許可され、家族の帯同も認められます。また、EPA介護福祉候補者として過去4年間、介護分野に従事した経験を持つ外国人に関しては、日本語試験が免除されることが決定しました。スキルの高さが試験を受けなくても確保されているからです。なお、日本に永続的に暮らすことができると先述しましたが、それには更新手続きが必要です。在留を希望する場合は5年ごとに必要とされる更新手続きを怠らないよう注意しましょう。
EPAは来日した外国人が、介護福祉士候補者として実際の介護の現場で経験を積み、やがて介護福祉士として資格取得やキャリアプランニングを目指していくことが本来の目的です。しかし、現実的にEPAの外国人の全員が国家試験に合格できるわけでなければ、そもそも最初から長期的な日本での就労を目指していないケースもあるでしょう。
そのため、中長期的な人手不足の解消プランとしてEPAを活用するには、現実的な外国人介護士の定着率/勤務継続率を考慮することも必要です。
JICWELSによれば、EPAで来日した外国人のうち、介護福祉士国家試験まで進む外国人はおよそ80%強とされています。つまり、EPA全体のおよそ20%が、国家試験を受ける前に帰国しているということが実態です。
国家試験を受けずに帰国する理由は様々です。例えば、日本でがんばりたくて勉強や仕事に努めていた外国人であっても、異文化で暮らし続けるストレスや、業務の負担によって、途中であきらめてしまうことはあるでしょう。あるいは、そもそも最初から試験合格を目指しておらず、単なる出稼ぎを目的として来日している人もいるかも知れません。その他にも、人それぞれの事情があり、本人が帰国したくなくても帰らざるを得ない可能性もあります。
とはいえ、EPAで外国人を受け入れるために必要な環境を整えようと、初期費用をかけている事業者にとって、早期に外国人が帰国してしまうことはコスト的なデメリットを拡大させる原因になります。
厚生労働省が2019年3月に発表した資料によれば、EPAにもとづいた外国人の「第31回介護福祉士国家試験」における合格者は266名で、合格率は46.0%だったそうです。つまり、実際に国家試験までこぎ着けたとしても、受験者の半数以下が不合格となっていることが分かります。
そして、そもそも受験率が全体の8割程度であったことを考えれば、EPAによって受け入れた外国人全体の、およそ36~37%しか介護福祉士として日本で働き続けるチャンスを得られない計算になります。
※参考サイト:厚生労働省(平成31年3月27日)「第31回介護福祉士国家試験におけるEPA介護福祉士候補者の試験結果」(https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000199604_00001.html#:~:text=厚生労働省が本日公表,率46.0%)でした。)
厳しい環境で努力を続け、見事に国家資格を取得したとしても、さらにその後も日本で介護士として働き続けるかといえば、そうとも限らないのが実状です。
JICWELSが公表した資料「外国人介護士の現状~EPAによる受入れを中心として~」を見れば、外国人に対する「日本で介護職員として働きたい期間」という質問に対して、「6年以上働き続けたい」と回答した外国人は約50%であり、さらに26.8%の外国人は「長く日本で働きたいかどうか分からない」と回答しています。
また、実態として調査時点で試験合格者の累計366人中、105人が帰国しているとされており、帰国率およそ28.6%という数字は、前述したアンケートで「分からない」と答えた割合にほぼ重なります。
つまり、日本で積極的に働きたいと考えている外国人でなければ、資格取得後も日本で介護士として働かず、むしろ帰国後に専門スキルを活かした職へ就いているという可能性が考えられるでしょう。
※参考サイト:公益社団法人 国際厚生事業団 専務理事 角田 隆(平成29年4月20日(木))「外国人介護士の現状~EPAによる受入れを中心として~」(http://www.mcw-forum.or.jp/image_report/DL/20170420-1.pdf#search='外国人介護士の現状 EPAによる受入れを中心として')
現代でも未だに、「外国人は日本で働きたがっている」というイメージを抱いている日本人は少なくありません。そのため、介護士の国家資格を取得して日本で働き続けられるようになれば、そのまま日本で働いてくれると安易に期待している事業者もいるでしょう。また、受け入れ環境の整備に初期費用を投じているからこそ、長く働いて欲しいと期待することも自然です。
とはいえ、実態として外国人介護士に末永く働き続けてもらうには、日本人介護士の離職率の低下を目指すのと同様に、外国人介護士にとって「ずっと働き続けたい」と思える環境を整えていくことが必要です。
日本の介護業界で働いている外国人労働者には、アジア諸国から南米諸国まで複数の国の出身者がおり、中でもフィリピン出身者が大部分を占めているとされています。また、EPAに限って見れば、2020年11月時点で日本がEPAとして外国人介護福祉士候補者を認めている相手国は「インドネシア、フィリピン、ベトナム」の3カ国となっています。
加えて、そもそもEPA(経済連携協定)は、「二国間協定」であり、詳細は相互の国が交渉して決定することもポイントです。そのため、EPA外国人介護福祉士候補者についても相手国ごとに受け入れ基準が異なっており、受入れ施設で実際に就労できるようになるまでの流れを国ごとに把握しておくことが重要です。
※参考サイト:公益社団法人 国際厚生事業団 専務理事 角田 隆(平成29年4月20日(木))「外国人介護士の現状~EPAによる受入れを中心として~」(http://www.mcw-forum.or.jp/image_report/DL/20170420-1.pdf#search='外国人介護士の現状 EPAによる受入れを中心として')
※参考サイト:公益社団法人 国際厚生事業団JICWELS「2020年付入れ盤EPAに基づく外国人看護師・介護福祉士候補者受入れパンフレット」(https://jicwels.or.jp/files/EPA_2020_pamph.pdf)
日本とインドネシアにおけるEPA看護師・介護士の受け入れは、2008年度からスタートしており、まずインドネシア国内で来日候補者となるための条件が設定されています。
また、受入れ施設とのマッチング終了後も、訪日前・訪日後研修などを修了しなければ、受入れ施設で雇用することができません。
インドネシア人がEPAを活用して来日する場合、まず看護師の場合は「看護師資格」に加えて「実務経験2年以上」が、介護士の場合は「看護学校卒業」または「高等教育機関卒業及び介護士認定」が必要です。
これらの要件を満たしている人のみを対象として、受入れ施設とのマッチングが行われます。そして、マッチングによって受入れ施設が見つかれば、訪日前研修・日本語能力試験へと進みます。
来日前に6ヶ月間の訪日前日本語研修を受け、日本語能力試験によって「N5」程度以上を取得することが必要です。
なお2017年度より、訪日前日本語研修の前段階で「N4以上」の日本語能力を認められている人の場合、訪日前日本語研修が免除となりました。
来日後、訪日後研修として6ヶ月間の日本語や習慣などに関する研修が実施されます。そして全ての研修を修了した時点で、受入れ施設で介護職員として働くことが可能です。
訪日後研修を終了すれば、あらかじめ決められていた受入れ施設で介護職員として就労できます。また、その後は働きながら勉強を続けて、介護福祉士の国家試験合格を目指すことになります。
フィリピンとのEPAは2009年度からスタートしており、フィリピンを相手国としたEPA介護福祉士・看護師候補者の受入れに関する流れは、基本的にほぼ同時期に始まったインドネシアのケースと似通っています。
看護師候補者の場合、「看護資格」と「実務経験3年以上」が必要です。また、介護士候補者の場合は、「看護学校卒業」または「4年制大学卒業及び介護士認定」が要件となっています。
インドネシアの場合と同様に、要件を満たしていれば候補者として、受入れ施設とのマッチングへ進めます。
フィリピンを相手国とした場合における、受入れ施設とのマッチング~受入れ施設での就労までの流れは、インドネシアの場合と同様です。
まず、訪日前日本語研修(6ヶ月間)が行われ、N5以上の日本語能力取得が必要になります。また、入国後は改めて6ヶ月間の訪日後日本語等研修を受け、修了後に受入れ施設で就労することが可能です。
なお、フィリピンの場合でも2018年から、訪日前日本語研修の開始前にN4以上の日本語能力を認められている人は、訪日前研修が免除となりました。
ベトナムとのEPAでは、インドネシアやフィリピンとの場合と条件がやや異なります。
看護の場合、「看護資格」と「3年制または4年制の看護課程修了」、さらに「実務経験2年以上」が必要です。介護の場合、「3年制または4年制の看護課程修了」が要件です。
ベトナムの場合、マッチングの前に訪日前日本語研修(12ヶ月間)を受け、さらに日本語能力試験で「N3」以上の認定を受けていなければなりません。そのため、ベトナム人のEPA介護福祉士候補者においては、マッチングの時点で一定以上の日本語能力を持っていることになります。
なお、N2取得者に関しては、訪日前日本語研修が免除です。
マッチングによって受入れ施設が確定し、雇用契約が締結されれば、そのまま入国することができます。
入国後は訪日後日本語等研修として2.5ヶ月の研修を受けます。
受入れ施設で就労後の流れは、他の2国と同様です。
EPAが成立した背景には各国の外交的な思惑があります。協定の成立条件について把握しておくことで、制度の意味合いをより深く理解し、活用しやすくなるでしょう。
特例的に介護福祉士の候補者の受け入れを認めているEPAですが、はじめから介護業界の深刻な人手不足を解消するために結ばれたものではありません。もとはインドネシア、フィリピン、ベトナムの、EPA成立後における国内の対策として、日本に人材を送り込み、失業者を減らすという狙いがありました。
また、外貨取得を図るという目的もあり、積極的に国を挙げて日本に労働者を送り込んでいたのです。そのため、受け入れ当初の日本は外国人労働者に対して消極的な姿勢で、高度なスキルを身につけた「高度外国人材」以外にはあまり興味を示していませんでした。団塊の世代が退職していない10年前の日本は、労働力が供給過多な状態だったので、人材不足が危ぶまれているとはいえ国内の労働力で対応できると考えていたのです。
労働力として外国人を受け入れる必要はないとしてきた日本。ところが、2010年に入ると状況は一転し、日本は少子高齢化により従来の方針を変更することを余儀なくされました。介護のニーズは高まるというのに労働人口は減っていくという惨劇を受け、外国人労働者を活用する動きが取られるようになったのです。そこで、EPAでの入国者を「介護福祉士候補者」とし、国家資格の所得を目指す人材として積極的に受け入れるようになりました。
すでにEPAによる受け入れ開始から10年が経過しました。現在では実動におけるさまざまな問題も浮き彫りになってきています。
外交関係を考えて、国家試験の予算の確保や試験時間の延長、滞在期間の延長など、あらゆる措置をとってきた政府ですが、外国人介護士が実際に働くうえで労働上の問題があります。例えば、政府間協定をとっていても、残業代を支払わなかったり、労災を隠したり、パワハラをしたり、帰国を強請したりなど、外国人介護士に対する対応が劣悪な介護施設が存在するのです。
研修体制も施設によって異なっており、中には研修を行わず、そのせいで国家試験に合格できないというケースもあります。上記のような施設は、4年間働いてくれれば良いと割り切っており、外国人労働者を「使い捨て」の労働力と捉えている場合が多いようです。
しかし、そのような姿勢をとっている施設があると、たとえ介護士の国家試験に合格しても、外国人が帰国してしまいかねません。実際、西日本のとある介護施設の、国家試験合格5年後の職場定着率は20%~30%と低い状態です。また、現代はSNSが発達したことで瞬時に情報を共有できてしまいます。そのため働きやすい施設にばかり優秀な人材が集まる可能性が高いのです。
人材が特定の施設に偏ってしまう事態を防ぐためにも、国籍に関係なく外国人が活躍できる環境を国家レベルで早急に整える必要があります。加えて、定住してもらうには外国人労働者の家族のことも考慮しなくてはなりません。配偶者や子供を持つ外国人に向けた制度を整え、子育てがしやすく、日本語教育の支援も受けやすい環境を作ることが今後求められるでしょう。