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介護事業所が外国人介護士を雇用するにあたり、4つの制度・資格が用意されています。この記事では、「技能実習生制度」と呼ばれる制度について、その制度の概要や目的、介護事業に携わる際の条件、他の資格との違いをまとめました。
「技能実習生制度」とは、日本から諸外国への技能移転を目的として設立された制度です。つまり、外国人を日本に一定期間受け入れて知識や技術・技能などを学んでもらうことにより、帰国後に自分の国の経済発展に役立ててもらうために行われているもの。
実習生は介護事業所で働きながら介護に関する技術や知識を学ぶため、事業所と雇用関係を結ぶことが必要です。技能実習生制度は東南アジアを中心に15カ国が対象となっており、実習中は家族の帯同は認められていません。
技能実習生制度の在留期間は基本的に3年間とされていますが、要件を満たすことにより5年間の滞在が可能。滞在期間が終了した後は帰国し、母国で介護事業に従事することになります。このような目的があることから、技能実習制度は「人手不足の解消」のために用いることはできない、とされている点が大きなポイントといえます。
ただし、技能実習の期間中に「介護福祉士」資格を取得すると、在留資格「介護」への変更ができ、日本で永続的に働くことができるようになります。さらに、3年目までの実習が終了した場合、「特定技能ビザ」を取得するために必要な試験が免除されるという特徴もあります。
在留資格「介護」や特定技能ビザについても詳しく知りたい方は、以下からご確認ください。
技能実習生として在留資格を得るためには、「18歳以上」また、「制度の趣旨を理解して技能実習を行おうとする者であること」「帰国後、習得等をした技術等を要する業務に従事することが予定されていること」「同じ技能実習の段階に係る技能実習を過去に行ったことがないこと」などの要件が定められています。
また、入国時における日本語能力は、「日本語能力試験N4程度」が要件となっていますが、入国から1年後には「N3」程度の能力を有していることが要件とされています。「N4」とは、日常生活の中で身近なものを読むことができる、また日常でよくある場面での会話内容をゆっくりであれば理解できるレベル。また、「N3」とは、短文の理解や言い換え表現といった日常における日本語が理解できるレベル、とされています。
ただし、入国から1年後にN3程度の能力を満たしていないと判断される場合でも、雇用されている事業所において「介護技能の習熟のため、必要な日本語を学ぶ」ことなどを条件として、引き続き3年目まで日本で実習を続けることが可能となります。
技能実習生は、まず現地の送出し期間機関による事前選考や面接、さらに講習や日本語能力試験を経て日本に入国します。入国後は原則として2ヶ月、技能実習生の受け入れ調整を行っている監理団体(事業協同組合や商工会などの団体)による講習を受けます。この講習では、日本語と介護の基本などについて学びます。
その後、監理団体によって調整が行われ、実習先の介護事業所が決定します。地域でどのような管理団体があるのかは、「OTIT(外国人技能実習機構)」のホームページで確認できます。
さらに技能実習生には、介護事業所で実習を開始した後も1〜2年毎に試験が行われます。まず入国から1年後に行われる学科試験・実技試験に合格すると追加で2年の実習が可能に。さらに入国から3年後に行われる実技試験に合格すると、追加で2年実習を受けることが可能となります。技能実習生としての滞在は最長で5年と定められているため、実習が終了した後は、帰国して母国の介護業務に従事します。
外国人介護職員を雇用するための制度や資格には、この記事で解説してきた「技能実習生制度」のほか、「EPA(経済連携協定)」、「介護ビザ」、「特定技能ビザ」の4種類があります。ここでは、技能実習生制度と他の3つの制度・資格の違いをご紹介します。
技能実習制度が他の3つの制度と大きく異なるのは、「日本で介護に関する知識や技術を学び、帰国後に母国で介護業務に従事する」を目的としている点です。そのため、日本における介護業界の人材不足を解消する目的で実習生の受け入れをすることはできません。
勤務できるサービスの種類は「訪問系サービス以外」とされています。EPAや介護ビザに比べて従事できるサービスの種類は限定されています(特定技能ビザは技能実習生制度と同様、訪問系サービスは不可となっています)。
また、夜勤に関しては「条件付きで可能」とされています。技能実習生が夜勤に従事する場合、技能実習生以外の介護職員を同時に配置する、2年目以降の実習生に限定するなどの条件を満たす必要があります。
「家族の帯同」に関しても、技能実習生制度の場合は認められていません。4つの制度・資格の中で家族の帯同が認められているのは「介護ビザ」のみとなります。
ここまで、「外国人技能実習生制度」についてご紹介してきました。日本の介護事業所に従事することで介護の技術を知識を学び、帰国後は母国に貢献できるよう介護事業に携わるという目的を持つ制度であることから、人手不足を目的として実習生を受け入れることはできません。
このような背景から、人材不足を理由として外国人介護職員を雇用したい、と考える場合には在留資格「特定技能ビザ」を利用することになります。
介護分野で外国人を技能実習生として雇用することについては、人手不足解消などのメリットがある反面、外国人を受け入れるために必要な取り組みやリスクもあります。そのため、まずは外国人技能実習生のメリット・デメリットを正しく理解した上で、準備を整えておくことが大切です。
介護の現場では常に介護して働いてくれる人材の不足が問題となっており、今後ますます少子高齢社会となっていく日本では、将来的にもっと多くの人材が介護業界で必要となることは明白です。そのため、介護の現場で働いてくれる人材を確保できることは大きなメリットです。
介護職が技能実習生の対象として認められたことで、介護福祉士の資格を持っていない外国人であっても、規定の条件を満たしていれば介護の現場で働いてもらうことが可能です。そのため、これまでは残念ながら来日できなかったり、帰国しなければならなかったりした外国人であっても、重要な戦力として考えられる可能性が高まりました。
2017年度より、外国人が日本で介護福祉士の資格を得ようと思えば、外国人留学生として来日し、介護福祉養成施設で2年以上の教育を受けた上で、介護福祉士国家試験に合格することが必要となりました。しかし、その間は留学生として過ごさなければならず、学費などが発生することに加えてアルバイトの時間にも制限があり、生活する上で大変なこともあります。
ですが、技能実習生として介護の現場で3年以上の実務経験を積んだ外国人も介護福祉士国家試験を受けられるように、平成29年12月8日に閣議決定(新しい経済対策パッケージ)がなされたため、外国人もきちんと働きながら介護福祉士の資格取得を目指すことが可能となりました。
技能実習生として入国するためには、日本語能力など一定以上の知識やスキルを備えた上で試験に合格しなければならず、また継続して働くには実習期間中もさらに上位試験に合格する必要があります。そのため必然的に、技能実習生は自ら意欲的に学習し、経験値を積もうと努力できる人材が選別されています。
技能実習生として働いてくれている外国人は、原則として一定期間ごとに試験を受けて合格しなければ、在留資格を延長できません。そのため、外国人技能実習生がきちんと試験にパスできるよう、本人が努力することはもちろん、組織としてもバックアップしていくことが必要です。
技能実習生を雇用するにあたって、きちんと雇用条件を設定し、さらにそれを本人へ正しく伝えられるようにしておかなければなりません。そのため、例えば事前に様々な書類を外国人が読めるように翻訳したり、日本での生活が困らないようにケアしたりといった、日本人を雇用する上では不要な作業が必要になります。
2019年4月から、専門的なスキルや経験を備えた外国人を対象として、新しい在留資格である「特定技能」が設けられました。そして介護職もまた特定技能の対象として選ばれており、規定の試験に合格することで最長5年間、「特定技能1号」として介護施設等で就労できる特定技能ビザを取得することが可能です。
※参考資料:介護分野における特定技能について(https://jicwels.or.jp/wp-content/uploads/2020/01/2.介護分野における特定技能について(厚生労働省).pdf)
特定技能ビザを取得する場合、技能試験や日本語試験などに合格して、介護職で働くための専門知識を持っていると証明しなければなりません。
試験としては、「介護技能評価試験」や「介護日本語評価試験」などがあり、介護で必要となる基礎知識や実技試験、要介護者との会話やコミュニケーション能力といった技能に関する技術レベルが評価されます。
特定技能1号の目安は技能実習生として3年目修了と同等とされており、3年目まで修了した技能実習生であれば試験が免除され、そのまま特定技能1号へ移行することが可能です。
介護分野における特定技能については、厚生労働省の管轄となっていますが、国内で試験を受けるには最初に「プロメトリックID」を取得した上で、個人もしくは企業として受験申込みを行う必要があります。
また、特定技能外国人を受け入れる法人についても、すでに特定技能1号外国人を受け入れた経験がある法人と、初めて受け入れる法人で手続きに違いがあるため、施設側も必ず詳細を確認するようにしてください。
その他、技能実習生と同様に、特定技能1号にも就労できる介護業務の制限があります。
厚生労働省では、介護事業者向けに特定技能外国人の雇用に関するガイドブックを公開している他、介護の日本語に関するテキスト(翻訳付き)や日本語学習Webコンテンツ、介護現場で働く外国人のための無料相談サポートを提供しており、積極的に活用していくことがおすすめです。
介護施設等で、技能実習生や特定技能1号として3年以上の就労・研修経験を積んでいる外国人は、改めて介護福祉士国家試験を受験することができます。
また、介護福祉士国家試験に合格して介護福祉士資格を取得し、在留資格「介護」を取得すれば、最長5年間の在留期間を何度でも延長できるようになるため、日本国内でいつまでも外国人介護士として働き続けられるようになります。
さらに、介護福祉士資格を取得している外国人は、家族を日本へ呼んで一緒に暮らすことも可能です。
外国人技能実習生や特定技能1号外国人が介護福祉士として日本で働くには、公益財団法人社会福祉振興・試験センターが実施している介護福祉士国家試験を受験して、合格する必要があります。
受験資格としては、介護施設等として認可を受けている組織や施設で、3年以上の就労・研修経験を積んでいることに加えて、在留資格を正しく持っているといったことも必要です。
介護福祉士国家試験に合格しても、介護福祉士として登録した上で、介護福祉士登録証が交付されなければ、在留資格「介護」の取得申請を行うことができません。
そのため、介護福祉士国家試験に合格後、介護福祉士登録証が交付されるまでは、地方出入国在留管理官署で在留資格「特定活動」への在留資格変更許可申請を行うことが必要です。
在留資格「特定活動」の申請を行う際は、雇用契約書の写しなど、労働条件や業務内容に関する書類も提出しなければなりませんが、ここでは外国人労働者であっても日本人労働者と同等額以上の報酬などを受けている必要があります。
そのため、外国人だからといって施設側が安価な給与を設定していたり、過酷な労働条件を強いていたりする場合、在留資格の変更は認められません。
※参考サイト:法務省「介護福祉士国家試験に合格して介護等の業務に従事する留学生の取扱いについて」(http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri07_00056.html)
外国人技能実習制度では、外国人労働者を取り巻く様々な問題点も発覚しました。
日本とは物価の異なる国から来日する外国人労働者は、給料が安くても文句を言わずに働くといったイメージを持っている経営者や施設運営者もおり、外国人へ不当に安い給料を提示しているケースがありました。
当然ながら、こういった扱いは許されることでありません。
施設側が雇用契約を解除したり身元保証を拒否したりすれば、在留資格を失って帰国を迫られる外国人も少なくありません。そこでそのような事実を背景として、外国人労働者に対して給与の未払いを繰り返したり、劣悪な労働環境での仕事を強制したりといった事業者も存在していました。
技能実習生が従事できる業務内容には制限があるにもかかわらず、密かに技能実習生へ本来は許されない仕事を課しているケースもあります。
実際、厚生労働省から発表された実態調査の結果では、外国人技能実習生を受け入れている事業所のおよそ70.8%において、何らかの法令違反があったとされており、中には指導後も改善が認められないと送検されたケースもあります。
※参考サイト:厚生労働省「外国人技能実習生の実習実施者に対する平成29年の監督指導、送検等の状況を公表します」(https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000212372.htmlp)
そもそも、意欲的かつ勤勉な技能実習生であれば、自身の置かれている状況や問題点についても高い意識を持っており、不当な扱いを受けていると分かれば、それを是正しようと活動することも当然です。
魅力的な人材を取り扱うからこそ、施設側にも高い意識が必要とされます。そのため、施設側はきちんと技能実習生に敬意を払った上で、積極的にコミュニケーションを取りながら、問題発生を未然に防ぐ努力を惜しんではいけません。
外国人介護士であっても、日本で労働者として働く場合は労災保険が適用されます。しかし、労災保険が適用されるからといって、そもそも事故が起こる危険を放置して良い理由にはなりません。
厚生労働省の発表によれば、平成27年以降、外国人介護士を含めた外国人労働者の労災事故は毎年2,000件超となっており、受入れ施設においても労災事故の防止対策や外国人介護士の安全意識の向上に取り組んだ上で、適切な労災保険の適用を進めていくことが必要です。
※参考サイト:厚生労働省群馬労働局「外国人労働者を雇用する事業主のみなさまへ」(https://jsite.mhlw.go.jp/gunma-roudoukyoku/content/contents/000647883.pdf)
労災保険(労働者災害補償保険)は、雇用保険と合わせて労働保険としてまとめられる保険であり、労働者または特別加入者が仕事中の事故や通勤途中の災害で負傷したり、病気になったりした場合に、必要な保険金を給付する制度です。
強制適用である労災保険は外国人労働者も対象としており、当然ながら外国人介護士を雇用する際にも労災保険へ加入することが必要になります。
労災保険の給付としては以下のような例が挙げられます。
業務中の事故や通勤途中の災害などの労働災害が発生して、労働者が死傷したり病気になったりした場合、事業主は速やかに労働基準監督署長へ報告することが義務づけられています。
この時、もしも事故の発生を隠そうとしたり、報告内容に虚偽を含ませていたりした場合、事業主が刑事責任へ問われることもあるため、必ず迅速かつ誠実に対応することが必須です。
外国人労働者は、日本語のマニュアルや注意書きを読めなかったり、日本人であれば当たり前と考える常識を有していなかったりということもあります。そのため、外国人介護士に対する安全管理は、通常の日本人へ行う時よりも一層にしっかりと行わなければなりません。
しかし、例えば労災事故で働けなくなった外国人介護士を強制帰国させるなどして、トラブルを表沙汰にしないといった事件も発生しています。
当然ながら、そのような不法行為が発覚した場合、外国人介護士の受入れ施設として不適格と見なされるだけでなく、介護事業者として致命傷になるかも知れません。
外国人介護士に関連した労災事故が発生して、労災保険が適用され、必要な補償やケアを行えるようになったとしても、外国人介護士に対しては医療機関を受診する際のフォローや、回復するまでの生活支援も必要になります。
制度や金銭による補償だけでなく、雇用主として外国人介護士へ責任を持つことが大切です。また、再発防止に努めることも欠かせません。
技能実習制度が成立した背景には、日本と海外との間できちんとした理念共有があった一方、その理想と労働実態にはギャップがあったことも事実です。
技能実習制度の設立目的は、第一に国際貢献事業としての運用でした。技術面や環境面で不充分とされる開発途上国から、先進国である日本へ人材を招き、一定期間の実習を経て必要な技術や知識を習得してもらうことで、母国へ戻った時にそれらのスキルを有効活用できるという仕組みです。
技能実習制度の相手国は、日本の団体「JITCO(公益財団法人国際研究協力機構)」とあらかじめ討議議事録(Record of Discussions)を取り交わしている国に限定されています。
また、受入れ方法としては、日本企業が相手国の現地法人などから現地職員を受け入れる「企業単独型」と、特定の非営利団体が管理者として外国人を受入れ、関連企業や法人で実習を行わせる「団体監理型」の2種類があります。
なお、実際には技能実習生の大半が団体監理型の受入れであり、企業単独型は条件の厳しさなどからごく少数となっていることが実状です。
技能実習は1993年に制度化され、ベトナムや中国、フィリピン、インドネシアといった諸外国から数多くの外国人技能実習生を受け入れてきました。しかし、それに伴って技能実習生に対する不適切な労働実態や人権侵害、また技能実習生の逃亡といった問題が生じ、やがて平成29年11月1日に「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(通称:技能実習法)」が施行されました。
これにより、管理団体は許可制となり、監督機関として「外国人技能実習機構」が設立、さらに人権侵害に対する罰則規定が設けられるなど、多角的な環境改善が進められています。
法改正前の旧制度下では、外国人に関する管理責任や人権意識といったものが明確化されておらず、低賃金・長時間の労働や残業代の不払い、休日返上の勤務体系など、技能実習生への人権侵害が頻発していました。また、出稼ぎ外国人という立場の弱さにつけ込んだセクハラや暴行、労災隠しといった問題も重要です。
その上、技能実習生が勤務先から逃亡し、犯罪に走るなど、社会的な悪影響も取り沙汰されました。
現在は技能実習生に対する管理団体や受入れ企業の責任・義務が明確にされており、不当な扱いに関する外国人からの申告制度も設けられています。
しかし、未だに以前の感覚で外国人に接しようとする事業者もおり、深刻な問題へ発展させないよう、事業者には制度目的や条件を正しく理解した上で技能実習生を支援することが求められています。
※参考サイト:法務省 出入国在留管理庁/厚生労働省 人材開発統括官「外国人技能実習制度について」(http://www.moj.go.jp/content/001318235.pdf)